医院開業ナビ営業電話なし・完全無料

開業コラム

「競合が少ないエリアは有望」を政府データで検算する — 競合が平均以下の自治体でも6割は10年後に需要が減る

公開日:

1. 開業でよく言われること

「競合の少ないエリアを選べば患者は集まる」。開業の立地選びで最もよく聞く経験則です。すでに医院が密集した街を避け、まだ空いている自治体に出れば、患者を取り合わずに済む、という理屈です。

この経験則が成り立つには、口に出されない前提が1つ要ります。「競合が少ないエリアは、これから患者が減らない」という前提です。この前提が本当に成り立つのかを、政府データだけで検算します。以下は意見ではなく計算結果です。

2. 計算方法(先に開示します)

使うデータは3つだけです。

  • 将来人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。市区町村別・5歳階級別。
  • 外来受療率: 厚生労働省「令和5年患者調査」の外来受療率(人口10万人あたり・年齢階級別・全国値)。
  • 競合数: 厚生労働省「医療情報ネット」の届出実数(2025年12月時点)。地図アプリの検索件数ではなく、届出ベースの実数です。

前2つを掛け合わせて、自治体ごとの外来需要を出します。

  • 外来需要 = Σ(年齢階級別人口 × その階級の外来受療率 ÷ 100,000)
  • 需要指数 = 各年の需要 ÷ 2025年の需要 × 100(2025年 = 100)

競合の多さは、人口で割った密度で測ります。

  • 競合密度 = 内科を届け出ている診療所の件数 ÷ 2025年人口 × 100,000(人口10万人あたりの件数)

対象は、将来人口と届出データの両方が揃う 1,786自治体。内科診療所の届出は合計 45,211件、対象人口は 121,707,136人。したがって全国平均の競合密度は 人口10万人あたり 37.15件 です。以下、診療科は内科、比較年は2035年に統一します。

3. 結果

3-1. 競合が平均より少ない自治体でも、6割は需要が減る

1,786自治体を、競合密度が全国平均(37.15件)より少ないか否かで2つに分けました。

区分自治体数全体に占める割合2035年 需要指数の平均需要が減る自治体の割合10%超減る自治体の割合
競合密度が全国平均より少ない93652.4%97.461.0%18.8%
競合密度が全国平均以上85047.6%92.779.4%38.9%
全体1,786100.0%95.269.8%28.4%

データ上は、競合が少ない側の方が需要の見通しは相対的に良い方向です(平均指数 97.4 対 92.7)。経験則は完全な誤りではありません。

ただし水準を見ると、競合が平均より少ない936自治体のうち 571自治体(61.0%) で2035年の外来需要は2025年を下回ります。競合の少なさで絞り込んでも、需要が減るエリアが6割残る計算です。

3-2. 密度の四分位で見ても、需要が減る自治体は最も少ない層でも6割

自治体を競合密度の低い順に4等分(各446〜447自治体)して並べ直しました。

競合密度の四分位別・内科の2035年外来需要指数(2025=100)指数
基準 10097.2最少層97.6やや少95.8やや多90最多層
競合密度の四分位別・2035年に外来需要が減る自治体の割合%
61.7最少層59.1やや少71.1やや多87.2最多層

内訳は次のとおりです。

競合密度の層自治体数平均密度(10万人あたり件数)2035年 需要指数の平均需要が減る自治体の割合平均人口(2025年)
最少層44719.597.261.7%61,200
やや少44731.697.659.1%88,257
やや多44642.095.871.1%85,720
最多層44684.890.087.2%37,373

需要指数が最も高いのは最少層ではなく「やや少」層(97.6)でした。そして最も競合が少ない層でも、需要が減る自治体は 61.7% あります。

3-3. 「競合が少ない」かつ「需要が減る」は全国の3割

1,786自治体を2軸で分類すると、こうなります。

分類自治体数全国に占める割合
競合が平均より少ない × 2035年に需要が減る57132.0%
競合が平均より少ない × 2035年に需要が維持・増加36520.4%
競合が平均以上85047.6%

競合の少なさだけを条件に選ぶと、その候補の中に「競合が少なく、かつ需要も減る」自治体が 全国の32.0% ぶん混ざります。一方、競合が少なく需要も維持・増加する自治体は 全国の20.4% です。

3-4. ただし、競合の少なさには別の意味がある

各層について、外来需要を診療所の件数で単純に割った「1院あたりの需要」も出しました。病院外来を含めない粗い割り算なので、水準そのものではなく層どうしの相対比較にのみ使えます。

競合密度の層1院あたり需要(2025年)1院あたり需要(2035年)
最少層8077
やや少4442
やや多3432
最多層2220

最少層の1院あたり需要は最多層の約3.6倍(80 ÷ 22)で、2035年でも約3.9倍(77 ÷ 20)の開きが残ります。データ上、競合の少なさは「1院あたりの需要が厚い」ことは示しています。示していないのは「需要がこれから増える」ことのほうです。この2つは別の話です。

4. なぜこうなるのか

データで裏取りできる範囲で、機序は3つです。

競合密度は人口で割った値だから。 分母が小さい自治体ほど、届出1件の差で密度が跳ねます。実際、競合密度が最も高い層の平均人口は 37,373人で、最少層(61,200人)や中間層(85,720〜88,257人)より小さい。つまり「競合が多い」と判定された自治体には小規模自治体が多く集まり、そこは同時に人口減の勾配も急です。競合密度は、人口規模の代理変数として一部ふるまっています。

競合密度は需要の方向をほとんど説明しないから。 競合密度と2035年需要指数の相関係数は -0.325 でした。決定係数にすると約11%で、需要指数のばらつきのうち競合密度で説明できるのは1割程度です。残りの9割は年齢構成と人口動態の側で決まっています。

母集団の7割がすでに減るから。 対象1,786自治体のうち 69.8%(1,246自治体) で、2035年の内科外来需要は2025年を下回ります。母集団の7割が減少側にある以上、競合の少なさという1つの条件で絞り込んでも、減少エリアは大量に残ります。

競合密度と需要指数は、別々に確認する必要がある指標です。自治体ごとの需要指数と届出件数はエリア別データで確認できます(例: 横浜市青葉区の内科)。

5. 言えること・言えないこと

言えること

  • 競合密度が全国平均より少ない自治体でも、61.0% は2035年の内科外来需要が2025年を下回る(この推計と受療率の前提のもとで)。
  • 競合密度と需要指数の相関は -0.325 と弱く、競合の少なさは需要の方向をほとんど説明しない。
  • 競合が少ない層は、1院あたりの需要が厚い(最少層は最多層の約3.6倍)。これは需要の増加とは別の性質。

言えないこと

  • 需要指数は2025年を100とした相対値です。患者数の実数予測でも、クリニックの売上予測でもありません。
  • 外来受療率は令和5年患者調査の全国値で固定しています。将来の受療行動の変化、オンライン診療の普及、地域差は反映していません。
  • 将来人口は中位仮定の1シナリオです。他の仮定では結果が変わります。
  • 競合密度は届出件数を人口で割った値で、医師数・病床・診療実態・病院外来の吸収は考慮していません。「競合が少ない」ことと「診療圏が空いている」ことは同義ではありません。
  • 本記事は自治体の推奨・非推奨を示すものではありません。個別の立地判断には、ここにない要素(物件、通勤・生活動線、連携先、資金計画など)が必要です。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

関連するコラム

AI診療圏分析レポートを無料作成

競合クリニックの一覧・年齢構成・AIによる将来性/リスク分析・総合評価を含む詳細レポートを、その場で無料生成できます。営業電話は一切ありません。

AI診療圏分析レポートを作成(無料)

本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。記載の数値は社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査に基づく計算値です。