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開業コラム

「地方は高齢化だから内科は患者が増える」を政府データで検算する

公開日:

開業を検討する医師の間で、よく語られる考え方があります。

「地方は高齢化が進んでいる。高齢者を多く診る内科のような科は、これから患者が増えるはずだ」

直感的にはもっともらしく聞こえます。ですが、公開されている政府データだけで計算すると、この前提は多くの地域で成り立ちません。順を追って、数字で確かめます。

計算の方法(先に開示します)

ここで示す数字は意見ではなく、公開データの機械的な計算結果です。使ったのは次の2つだけです。

  • 将来の人口: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」の中位仮定。全国1,904自治体×5歳年齢階級。
  • 年齢別のかかりやすさ(受療率): 厚生労働省「令和5年患者調査」の外来受療率(全国値)。

両者を掛け合わせて各自治体の外来需要の総量を年ごとに出し、2025年を100とした指数にしました。指数が100を超えれば需要増、下回れば減、という相対的な物差しです。

結果①: 内科でも、需要は都市の規模で大きく分かれる

内科の2035年の需要指数を人口規模別に平均すると、はっきりした勾配が出ます。

内科の2035年外来需要指数(2025=100)人口規模別平均指数
基準 100103.720万人以上100.55〜20万人95.62〜5万人89.52万人未満

需要が増える(指数100以上の)自治体の割合も同じ方向です。

2025年人口自治体数内科・需要指数(2035)需要が増える割合
20万人以上178103.778.7%
5〜20万人498100.554.6%
2〜5万人40195.622.9%
2万人未満82789.57.6%

人口20万人以上の市では約8割で内科の外来需要が増える一方、2万人未満の自治体で増えるのは7.6%。「地方の内科は高齢化で安泰」という前提とは、逆の方向を向いています。

結果②: 科によって10年後の需要地図はまるで違う

そもそも「高齢化=どの科でも患者が増える」でもありません。全国1,904自治体のうち、2035年に外来需要が増える自治体の割合は、科ごとに大きく差があります。

診療科需要が増える自治体の割合
内科29.8%
泌尿器科28.4%
整形外科23.0%
眼科19.3%
消化器内科18.8%
外科9.8%
精神科・心療内科7.1%
皮膚科6.7%
耳鼻咽喉科3.8%
産婦人科1.5%
小児科1.5%

最も追い風の内科でも約3割、産婦人科・小児科は1.5%にとどまります。

なぜ逆になるのか: 高齢“化率”は上がっても高齢者の“実数”が減る

理由は、高齢化率(割合)と高齢者の実数を混同している点にあります。同じ将来推計で65歳以上の人口そのものの推移を見ると、小規模自治体ではむしろ減っていきます。

2025年人口65歳以上人口が2035年に増える自治体の割合
20万人以上91.6%
5〜20万人68.7%
2〜5万人30.7%
2万人未満10.2%

小規模な自治体では、高齢化率が上がっても、分母の人口が速く減るため、高齢者の頭数そのものが減っていきます。2万人未満の自治体で高齢者の実数が増えるのは、10自治体に1つ程度。診療の対象人数が減れば、外来需要の総量も増えません。「高齢化している」ことと「高齢者が増える」ことは、別の話です。

この数字で言えること・言えないこと

  • この指数は2025年を100とした相対的な推移であって、患者数の絶対値やクリニックの売上を予測するものではありません。
  • 受療率は令和5年の全国値で固定しています。将来の医療技術・受診行動・制度の変化は反映していません。
  • 将来人口は中位仮定(出生中位・死亡中位)に基づく1つのシナリオです。
  • 需要が減る地域=開業に不向き、と単純化はできません。競合の少なさ・自費診療・在宅・広域からの集患など、この指数だけでは測れない要素は多くあります。

言えるのは、「地方は高齢化だから内科は増える」という一枚岩の前提は、自治体ごとに検算すると崩れる、ということです。開業地を選ぶときは、通説ではなく、自分の診療科と候補エリアの数字を個別に見る価値があります。

お探しの市区町村の人口動態・競合クリニック密度はエリア別の開業データから確認できます。

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本記事は開業検討の参考情報であり、開業の成否を保証するものではありません。記載の数値は社人研R5推計(中位) / 令和5年患者調査に基づく計算値です。